2023.05.29

たかがイボ、されどイボ

現在進行形で我が家を侵食している疾患、それは「イボ」。
私は大量の首イボ(軟性線維腫)、夫はウイルス性のイボ(尋常性疣贅)、そして幼稚園児の娘は水イボ(伝染性軟属腫)、ウイルス性イボのダブルパンチです。
水イボは7歳以下の子どもに多くみられる皮膚感染症1)で、放置するとどんどん増えてしまうため、皮膚科で専用の器具でつまみとってもらうのです。処置部には麻酔テープを貼るので痛みは少ないものの、小さな子どもにはこの処置そのものが大変な恐怖でしょう。もうかれこれ受診6~7回、のべ数十個の水イボを処置していますが、我が子ながらよくがんばっているものです。
そこに来てウイルス性イボの襲来…。これはご存じの方も多いでしょうが、液体窒素で凍らせてポロリととれるのを待つ、というものです。当然、痛い。水イボの終焉が見えてきたところにウイルス性イボが見つかったので、娘ももうやっていられなくなったのでしょう、とにかく嫌がるのです。看護師さんと私で10分以上にわたる必死の説得や懐柔→なんとか処置→泣きわめく娘を抱えて帰宅、というのがここ数週間のルーチンです。
日本皮膚科学会による「尋常性疣贅診療ガイドライン2019(第1版)」をみてみると、推奨度の高い、最も行われている治療法として液体窒素凍結療法が挙げられています。しかしガイドラインには当然、「泣いて暴れる子ども」「説得に時間を割く医師・看護師」「疲弊する親」の姿はありません。しかしこれが、大げさですが現場の姿だと思うのです。
私たちメディカルライターは、正確性担保のため、ガイドラインや論文など「情報としてまとまっているもの」を根拠として執筆せざるを得ません。しかしそれは同時に、その背景にあるはずの現場の苦労や患者さん・その家族の思いを見ない、ということでもあります。
仕事として表すことは難しくても、一般生活者と医療をつなげる者として、このような現場の姿を忘れずに、心に留めて仕事をしていきたい。大泣きする娘を抱える帰り道は、いつもそんなことを考えています。

1)日本小児皮膚科学会:お役立ちQ&A みずいぼ
http://jspd.umin.jp/qa/01_mizuibo.html(最終アクセス:2023年5月)

執筆者

紺野 希

企画部 メディカルライター
テクニカルライター、書籍編集者を経てメディカルライターの道へ。
特に糖尿病全般、がん(消化器、乳腺、肺、婦人科)の経験が豊富。