2023.05.28

何を言っているのか一つもわからない

「何を言っているのか一つもわからない」。
これは、10年ほど前、私がメディカルライターとして働きはじめたころによく心でつぶやいていた言葉です。
当時勤めていた医療系広告代理店で、消化器癌に関する学会報告を簡単な記事にまとめる、ということをやらせてもらっていたのですが、まあこれが何度出しても真っ赤になって戻ってきて、永遠に終わらないのです。
まず私を苦しめたのが、用語の難解さでした。ゴリゴリの文系で「がん」と言えば「切る、抗がん剤を使う」くらいの知識しか持ち合わせていなかった私に、「アジュバント」「レジメン」「ランダム化比較試験」「ハザード比」といった専門用語や、聞いたこともない薬の名前は謎の呪文にしか思えませんでした。それらをインターネットで検索しても、解説文そのものがまた難解なのと、そもそもの背景知識がないので、結局なんの話なのかよくわからないのです。
何もわかっていない人間が何もわからないまま書いた原稿なので、それを添削する当時の上司の苦労はひとかたならぬものだったことでしょう。根気強く付き合っていただいたことには、今でも感謝しています。「ここはこうだから、こう書くのが正しいのよ」と一文ずつ付きっ切りで直していただきましたが、その解説すらもイマイチよくわかっていなかったことは秘密です。そんな私でも、10年経ってなんとか専門用語もある程度は理解できるようになり、メディカルライターとしてお仕事をいただけるようになったのですから驚きです。
何もわからなかった私が唯一実行できたこと、そして今も変わらず心がけているのは、「とにかくシンプルにする」ということです。どんなに難解な文章でも、まずは主語と述語に分解、不要そうな形容詞はいったん無視、専門用語は子どもでもわかる表現に言い換え…いろいろな方法がありますが、無駄な装飾をそぎ落としてそぎ落として、コアの部分だけを取り出す。これは、メディカルライターには欠かせない要素なのではないかと自負しています。
誰にでもわかりやすいシンプルな表現をお求めの方は、ぜひ当社にご相談ください!

執筆者

紺野 希

企画部 メディカルライター
テクニカルライター、書籍編集者を経てメディカルライターの道へ。
特に糖尿病全般、がん(消化器、乳腺、肺、婦人科)の経験が豊富。